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東京地方裁判所 平成9年(ヲ)2163号 決定 1997年8月06日

申立人

X株式会社

代表者代表取締役

主文

本件執行異議の申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

1  本件異議申立の趣旨及び理由は,別紙「執行異議申立書」記載のとおりであり,要するに,申立人は基本事件の各不動産の所有者であるところ基本事件の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)は無効であるとして,執行異議の申立て及び執行手続の停止を求めたものである。

2  しかし,そもそも競売開始決定に対する異議は,簡易な手続により迅速に手続の取消しを認めるものであるから,民事執行法が担保権の実行は法定文書による場合に限定し(181条),それによる不都合については一定の法定文書に基づく手続の停止・取消し(183条)を認めている趣旨にかんがみれば,執行裁判所の手続において,根抵当権の有効性や被担保債権の存否等を理由とする異議を審理できるのは,口頭弁論によらずして簡易に審理できる場合に限られ,それ以外の場合には,判決等によって手続の停止・取消しを得るべきものというべきである。

本件において,申立人の主張及び一件記録によれば,申立人は,基本事件の債務者と同申立債権者(以下,単に「債権者」という。)との間の継続的金銭消費貸借取引等を被担保債権として,債権者との間で本件根抵当権設定契約を締結した事実が認められるところ,申立人が主張するように,本件根抵当権設定契約は,商法265条1項の利益相反取引にあたるが取締役会の承認を得ておらず無効であること,債権者は取締役会の有効な承認を得ていないことを知っていたことなどの点は,訴訟手続により口頭弁論を経て判決で確定するべきものであり,執行裁判所は,本件のような事件の実体的な面を確定させるような充分な審理をすることはできないから,結局,本件の執行異議の申立ては,却下せざるを得ない。

3  したがって,申立費用の負担について民事執行法20条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり決定する。

(裁判官 市川智子)

別紙 執行異議申立書<省略>

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